新株予約権の解説:第1回「新株予約権の発行手続」

「新株予約権」とは、「株式会社に対して行使することにより当該株式会社の株式の交付を受けることができる権利」です。(会社法第2条21条)

スタートアップ/ベンチャー企業でよく使用されるストックオプション・J-KISS・転換社債等は新株予約権の一形態となります。

これから何回かに分けて、スタートアップ/ベンチャー企業において様々な形で利用される「新株予約権」について解説・検討するシリーズをお送りして行こうと思います。

第1回は新株予約権の「発行手続」についてです。

ほとんどのスタートアップ/ベンチャー企業は非公開会社(すべての株式に譲渡制限規定が付されている会社)ですので、本シリーズの記載はすべて非公開会社に関する内容となります。

新株予約権の発行手続

1.募集事項の決定

新株予約権を発行するにあたって最初に行うことは、発行する新株予約権の募集事項を定めることです。

募集事項とは会社法第238条1項に規定されている事項であり、おおよそ以下の事項です。

  • 発行する新株予約権内容と数
  • 新株予約権を発行する際に金銭の払込を必要とするか、否か(必要な場合はその額又は算定方法、払込期日)
  • 新株予約権の割当日(発行日)
  • 新株予約権社債とする場合には社債の内容

募集事項の決定は株主総会の特別決議で行います。(参考:サイト内リンク→株主総会の決議要件に関して

なお、募集事項の決定を株主総会から取締役会/取締役決定へ委任することができますが(会社法第239条)、その場合でも新株予約権の内容等など大部分の募集事項については、株主総会決議で定めなければならないことに注意が必要です。

(募集事項の決定)

第二百三十八条 株式会社は、その発行する新株予約権を引き受ける者の募集をしようとするときは、その都度、募集新株予約権(当該募集に応じて当該新株予約権の引受けの申込みをした者に対して割り当てる新株予約権をいう。以下この章において同じ。)について次に掲げる事項(以下この節において「募集事項」という。)を定めなければならない。
 募集新株予約権の内容及び数
 募集新株予約権と引換えに金銭の払込みを要しないこととする場合には、その旨
 前号に規定する場合以外の場合には、募集新株予約権の払込金額(募集新株予約権一個と引換えに払い込む金銭の額をいう。以下この章において同じ。)又はその算定方法
 募集新株予約権を割り当てる日(以下この節において「割当日」という。)
 募集新株予約権と引換えにする金銭の払込みの期日を定めるときは、その期日
 募集新株予約権が新株予約権付社債に付されたものである場合には、第六百七十六条各号に掲げる事項
 前号に規定する場合において、同号の新株予約権付社債に付された募集新株予約権についての第百十八条第一項、第百七十九条第二項、第七百七十七条第一項、第七百八十七条第一項又は第八百八条第一項の規定による請求の方法につき別段の定めをするときは、その定め

(2項~5項の記載省略)

また、新株予約権の内容は、会社法第236条で定められています。詳しくば別の回で検討していこうと思います。

(新株予約権の内容)
第236条 株式会社が新株予約権を発行するときは、次に掲げる事項を当該新株予約権の内容としなければならない。
 当該新株予約権の目的である株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)又はその数の算定方法
 当該新株予約権の行使に際して出資される財産の価額又はその算定方法
 金銭以外の財産を当該新株予約権の行使に際してする出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額
 当該新株予約権を行使することができる期間
 当該新株予約権の行使により株式を発行する場合における増加する資本金及び資本準備金に関する事項
 譲渡による当該新株予約権の取得について当該株式会社の承認を要することとするときは、その旨
 当該新株予約権について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができることとするときは、次に掲げる事項
(イ~チの記載省略 取得の条件・期限・対価等)
 当該株式会社が次のイからホまでに掲げる行為をする場合において、当該新株予約権の新株予約権者に当該イからホまでに定める株式会社の新株予約権を交付することとするときは、その旨及びその条件
(イ~ホの記載省略 組織再編に関する事項)
 新株予約権を行使した新株予約権者に交付する株式の数に一株に満たない端数がある場合において、これを切り捨てるものとするときは、その旨
 当該新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)に係る新株予約権証券を発行することとするときは、その旨
十一 前号に規定する場合において、新株予約権者が第二百九十条の規定による請求の全部又は一部をすることができないこととするときは、その旨

(2項~5項記載の省略)

2.募集事項の通知

株主総会決議にて、新株予約権の募集事項が決定されましたら、新株予約権の引受予定者に募集事項等の通知を行います。(会社法242条1項)

通知すべき法定の事項は以下のとおりです。加えて、会社が定めた申込期限を通知することが多いです。

  1. 株式会社の商号
  2. 募集事項
  3. 新株予約権の行使に際して金銭の払込みをすべきときは、払込みの取扱いの場所
  4. 上記のほか、法務省令で定める事項(発行可能株式数・譲渡制限の定め等)

3.新株予約権の引受申込み

新株予約権の引受予定者は、「2.募集事項の通知」記載の内容を確認した上で、新株予約権を引き受けようとする場合は、発行会社に対して引受申込みを行います。(会社法242条2項)

引受申込みは、次に掲げる事項を記載した書面を株式会社に交付して行います。

  • 申込みをする者の氏名又は名称及び住所
  • 引き受けようとする募集新株予約権の数

4.新株予約権の割当て

会社は「3.新株予約権の引受申込み」を行った申込者の中から新株予約権の割当てを受ける者+割り当てる新株予約権の数を決定します。(会社法第243条)

割当てに関する決定は、取締役会設置会社は取締役会/取締役会非設置会社は株主総会(又は定款で定めた方法)にて行います。

そして、会社は割当対象者と割り当てる新株予約権の数を決定したら、割当日の前日までに、割当対象者に対して割り当てた新株予約権の数を通知する必要があります。

割当てが行われ、「1.募集事項の決定」で定めた割当日が到来すると、新株予約権が実際に発行されることになります。

特則:総数引受契約

会社法第244条において、新株予約権の申込み及び割当てに関する特則として総数引受契約という方法が定められています。

「総数引受契約」とは、「募集新株予約権を引き受けようとする者がその総数の引受けを行う契約」です。

簡単に書きますと、新株予約権100個を発行する場合、その100個につき引受を行う契約となります。引受者は1人でも複数人でも大丈夫です。

引受者が複数人の場合は、個別の契約の内容として100個のうち●個引き受けるとしてを引き受けるとして、総数引受契約であることがわかるようになっている必要があろうかと思われます。

総数引受の方法を採用する場合、「2.募集事項の通知」「3.新株予約権の引受申込み」「4.新株予約権の割当て」の手続が不要となりますが、取締役会設置会社は取締役会/取締役会非設置会社は株主総会(又は定款で定めた方法)にて総数引受契約を承認する必要はあります

その他:実務でよくみられる発行方法

スタートアップ/ベンチャー企業の新株発行では、引受者が事前に決定していることがほとんどです

よって、できるだけ手続を簡便にするために、条件付割当決議を採用することが多いです。

条件付割当決議とは、申込前に「(引受申込みがあることを条件に)引受(予定)者に対して●個の新株予約権を割り当てる」という内容の決議です。

取締役会非設置会社では、募集事項を決定する株主総会決議で行うことで株主総会の開催を1回にすることができますし、取締役会設置会社でも株主総会招集決定を行う取締役会で行うことで、取締役会の回数を1回にすることができます。

結び

新株予約権について考えるシリーズ。第1回は「新株予約権の発行手続」について見てきました。

次回からは「新株予約権の内容」について考えてみようと思います。

企業法務/商業・法人登記
港区の司法書士
長克成