新株予約権の解説:第6回「新株予約権の募集事項の決定」
- 第1回はこちら→新株予約権(1)-発行手続
- 第2回はこちら→新株予約権(2)-内容1:目的である株式の種類及び数/出資財産
- 第3回はこちら→新株予約権(3)-内容2:行使期間等
- 第4回はこちら→新株予約権(4)-内容3:取得条項
- 第5回はこちら→新株予約権(5)-内容4:行使条件
新株予約権を発行する際には、前回まで見てきました会社法第236条で規定されている「新株予約権の内容」を定めつつ、会社法第238条の募集事項を決定する必要があります。
今回は、「募集事項の決定」について検討してまいります。
新株予約権の募集事項の決定
まずは、新株予約権(1)-発行手続のおさらいです。
新株予約権を発行する際には、株主総会の特別決議により新株予約権の募集事項の決定を行う必要があります。
決定する募集事項は、会社法第238条1項に規定されており、おおよそ以下の事項です。
- 発行する新株予約権の内容と数
- 新株予約権を発行する際に金銭の払込を必要とするか、否か(必要な場合はその額又は算定方法、払込期日):有償・無償発行
- 新株予約権の割当日(発行日)
- 新株予約権社債とする場合には社債の内容
1.の新株予約権のうち、内容については第2~5回でポイントを見てきました。
4.の社債の内容については、当サイト内の「社債の発行」で言及しています。今回は割愛します。
- 社債についてはこちら→社債の発行(当サイト内リンク)
ということで、「発行する新株予約権の数」「有償・無償発行」「割当日」について見ていきます。
発行する新株予約権の数
これは言葉どおりですね。新株予約権を何個発行するか、ということになります。
一般的なストックオプションとしての新株予約権であれば、「誰に」「何個」付与するかを検討し、募集事項ではその合計数を定める形になろうかと思います。
転換社債型新株予約権付社債(以下、「転換社債」という)の場合は個数の設定に少し気を付けた方がよいかもしれません。
転換社債の行使時の検査役の選任について
転換社債は、新株予約権の行使に際して、新株予約権が付された社債を現物出資することとなります。
現物出資に関しては原則、その価額の調査のため、裁判所に対し検査役の選任の申立てをしなければならないこととなります。(会社法第284条)
検査役の選任には時間・費用・手間がかかりますので、実務では会社法284条第9項の検査役選任を不要とする例外規定を用いることが大部分かと思います。
いくつか例外規定の種類はありますが、転換社債では「現物出資の価額の総額が500万円を超えない場合」という要件を使うことが多いです。
新株予約権の場合、現物出資の価額の総額は新株予約権1個あたりの額で判断されるため、1個当たりの現物出資額を500万円以下にすれば要件を満たせます。
社債の額面が500万円であれば、各社債に1個の新株予約権を付せば要件をクリアできますし、1000万円であれば各社債に新株予約権を2個付すことでクリアできます。
有償・無償発行
これは新株予約権を発行する際、引受人が金銭を支払う必要があるか、無いか(必要ある場合は1個あたりいくらか)ということです。
税制適格ストックオプションでは、「無償で発行された新株予約権であること」という要件があるため、無償発行が必須となります。
- 税制適格ストックオプションについてはこちら→ストックオプション(当サイト内リンク)
有償発行の場合は、募集事項で定められた期日までに金銭を払込を行う必要があります。
有償発行ストックオプションについては、この新株予約権シリーズとは別の機会で言及してみたいと思います。
割当日
割当日=新株予約権の申込者が新株予約権者となる日=新株予約権の発行日、ですね。
詳しい説明等はあまり要らないかと思いますが、1点だけ注意。
税制適格ストックオプションの要件となる行使期間の算定では、基準となるのは割当日ではなく付与決議日なのでご注意ください。
参考:権利行使が付与決議日から2年を経過した日から10年を経過する日までに行われなければならないこと(税制適格ストックオプションの行使期間)
- 再掲:税制適格ストックオプションについてはこちら→ストックオプション(当サイト内リンク)
結び
今回は「新株予約権の募集事項」に関して解説してまいりました。
これで、一応、発行手続・新株予約権の内容・募集事項の決定、と新株予約権に関して一通り見てきました。
一旦完結とさせていただこうと思いつつ、何か気付きましたら第7回として発信するかもしれません。
新株予約権の発行手続はお任せください。
司法書士 長克成/港区・青山一丁目