種類株式の解説:第4回「取得請求権(株式への転換請求権)」

種類株式の内容について解説・検討するシリーズの第4回です。

取得請求権(株式への転換請求権)

取得請求権が付された種類株式(取得請求権付種類株式)とは、株主が株式会社に対してその種類株式の取得を請求することができる株式のことです。

前回は、取得の対価が金銭である種類株式を見てきましたが、今回は取得の対価として普通株式を設定する種類株式について考えていきます。

株主が会社に対して、請求をすることにより種類株式を普通株式に転換することができます。

取得請求権(株式への転換請求権)に関する一般的な定款記載例

A種優先株主は、いつでも、当会社に対して、A種優先株式を取得することを請求することができるものとし、当会社はA種優先株主が取得の請求をしたA種優先株式を取得するのと引換えに、下記に定める算定方法に従って算出される数の当会社の普通株式を、当該A種優先株主に対して交付するものとする。

金銭への転換と同様、「いつでも」の部分には「●年■月▲日以降」「○○がされた場合」等の条件を設定することも可能です。

対価である普通株式数の定め方

種類株式と引き換えに交付される普通株式数の定め方ですが、一般的には次のような式で定められることが多いと思われます。

対価である普通株式の一般的な定款記載例

(1)取得と引換えに交付する普通株式の数
A種優先株式を取得するのと引換えに交付すべき当会社の普通株式の数は、次のとおりとする。
  取得と      A種優先株主が取得の請求をした
  引換えに     A種優先株式の払込金額の総額
  交付する   = ――――――――――――――――
  普通株式の数        取得価額
(2)当初取得価額
取得価額は、当初金●円とする。
(3)取得価額の調整
【以下、取得価額の調整に関する事項が続く】

「(2)当初取得価額」については、当該種類株式の発行価額を設定することが多いです。

A種優先株式が1株1万円で100株発行され、すべて取得請求権が行使された場合の例ですと↓のようになります。

交付する普通株式の数=1万円×100株/1万円=普通株式100株

A種優先株式100株が普通株式100株に転換されることとなります。当初は種類株式と普通株式の転換比率は1:1であることが多いと思われます。

取得価額の調整

株式分割・株式併合等の調整

株式分割・株式併合等が行わる場合、種類株式の取得価額の調整を行う必要があります。

株式分割がされる場合には、分割比率(1株を●株に分割)に応じて取得価額が「1/●」になるような調整が行われます。

株式併合がされる場合には、併合比率(●株を1株に併合)に応じて取得価額が「●倍」になるような調整が行われます。

株式分割・株式併合による取得価額調整式の例

【株式分割】

 調整後   調整前   分割前発行済普通株式数
 取得  = 取得  × ―――――――――――
 価額    価額    分割後発行済普通株式数

【株式併合の場合】

 調整後   調整前   併合前発行済株式数
 取得  = 取得  × ―――――――――
 価額    価額    併合後発行済株式数

ダウンラウンド時の調整式

既存の株式の発行価額より低い価額で新たに株式が発行される場合(ダウンラウンド)には取得価額の調整を行うことが種類株式の内容として定められることが通常です。

代表的な調整式としては、「フルラチェット方式」と「コンバージョンプライス方式(加重平均方式)」があります。

フルラチェット方式

一般的に、転換比率の基準となる調整前の優先株式の取得価額を下回る払込金額での普通株式の発行等がある場合などに、その発行数量にかかわらず、当該下回る金額を調整後の優先株式の取得価額とする方式をフルラチェット方式といいます。

フルラチェット方式の定款記載例

当会社が、調整前の取得価額を下回る1株あたりの払込金額での普通株式の発行又は処分を行う場合、取得価額を当該普通株式の1株あたりの払込金額に変更するものとする

1株でも、優先株式の取得価額を下回る金額で普通株式を発行した場合は、取得価額が当該普通株式の発行価額に変更されるという、とても厳しい調整条項です。

事例:
発行済 普通株式100株(1株1万円で発行)、A種優先株式100株(1株10万円で発行)の会社が
新たに普通株式50株を1株5万円で発行する場合

↓のような調整が行われます。

フルラチェット方式による調整
コンバージョンプライス方式

一般的に、調整前の取得価額及び当該新規発行の株式の価額を、新規発行数量も考慮した一定の計算式に基づき加重平均して算出した値を調整後の優先株式の取得価額とする方式をコンバージョンプライス方式といいます。

加重平均の内容に新株予約権等の潜在株式も考慮するか否かで、ナローベース・コンバージョンプライス方式、ブロードベース・コンバージョンプライス方式と区別があったりします。

コンバージョンプライス方式の定款記載例

コンバージョンプライス方式

フルラチェットと同様の事例:
発行済 普通株式100株(1株1万円で発行)、A種優先株式100株(1株10万円で発行)の会社が
新たに普通株式50株を1株5万円で発行する場合

↓のような調整が行われます。

コンバージョンプライス方式による調整

調整式の設定によって、ダウンラウンド時の株式のシェアに関して大きく差が出ることがわかります。

結び

第4回は、種類株式の内容として「取得請求権(株式への転換請求権)」について見てきました。

このシリーズ、もう少し続きます。

企業法務/商業・法人登記
港区の司法書士
長克成