種類株式の解説:第6回「全部取得条項」
種類株式の内容について解説・検討するシリーズの第6回です。
- 第1回はこちら→種類株式(1)-剰余金の配当
- 第2回はこちら→種類株式(2)-残余財産の分配
- 第3回はこちら→種類株式(3)-取得請求権:金銭
- 第4回はこちら→種類株式(4)-取得請求権:株式
- 第5回はこちら→種類株式(5)-取得条項
全部取得条項
全部取得条項が付された種類株式(全部取得条項付種類株式)とは、発行会社の株主総会の特別決議により当該種類株式の全部を取得するという内容の種類株式のことです。
取得請求権付種類株式は株主からの請求により取得、取得条項付種類株式は一定の条件成就により会社側から強制取得されました。
これに対し、全部取得条項付種類株式は会社の株主総会特別決議によって(当該種類株式のすべてが)取得されます。
その性質から、全部取得条項付種類株式は、実務では(M&Aなどの場合において)会社の少数株主を排除する(キャッシュアウト)や、いわゆる100%減資のために用いられることが多いかと思います。
全部取得条項を設ける場合は、種類株式の内容として、定款で次の事項を定める必要があります。
- 当該種類の株式について、当該株式会社が株主総会の決議によってその全部を取得すること
- 取得対価の価額の決定方法
- 株主総会の決議をすることができるか否かについて条件を定めるときはその条件
全部取得条項に関する一般的な定款記載例
当会社が発行するX種株式は、当会社が株主総会の決議によってその全部を取得できるものとする。当会社がX種株式を取得する場合には、X種株式の取得と引換えに、X種株式1株につき、Y種株式●株の割合をもって交付する。
取得の対価
全部取得条項付種類株式の取得の対価は、取得請求権・取得条項と異なり、定款では「取得の対価の価額の決定の方法」を定めれば足り、予め具体的な取得対価の価額を定めておく必要はありません。(「取得決議時の会社の財務状況を踏まえて定める」等でも可。)
対価としては「他の種類の株式」「新株予約権」「社債」「新株予約権付社債」「金銭等その他の財産」を採用することができ、金銭等を対価とする場合には分配可能額の制限があることは、取得請求権・取得条項と同様です。
分配可能額についてはこちらをご参照ください。(当サイト内リンク)
種類株式の設定から取得(いわゆる100%減資スキームより)
100%減資スキームとは、会社更生手続等で、債務超過の会社の再建のために、既存株主の保有する株式をすべていったんゼロにして、新しいスポンサーに株式を割り当て、出資してもらうという手法のことです。
会社法施行後は、全部取得条項付種類株式を使ってこのスキームに近いことができるようになっています。
割とマニアックな手続ですので、詳細は司法書士にお問い合わせいただければと思いますが、一応概要だけ。
なお、全部取得条項付種類株式は会社法第108条にのみ規定されているため、これを設定できるのは、種類株式発行会社のみです。
また、会社法上、設定・取得の際に株主保護について定められています。
簡易的にはなりますが、いわゆる100%減資スキームを例に、全部取得条項付種類株式の設定から取得までの流れを以下に記載します。
手続きの流れ
- 種類株式(当て馬となる種類株式)の設定
- 株主総会特別決議
- 全部取得条項を設定するには種類株式発行会社となる必要あり(定款に内容の異なる二以上の種類株式の設定が必要)
- 普通株式とA種株式(当て馬種類株式)が定款で定められている状態に
- 発行済株式(普通株式)を全部取得条項付種類株式へ内容変更
- 株主総会特別決議
- 普通種類株式の種類株主総会特別決議
- 普通株式に全部取得条項を付す
- 反対株主には株式買取請求権あり
- 全部取得条項付種類株式(普通株式)を会社が取得
- 株主総会特別決議
- 株主は「情報開示」「取得の差止請求権」「裁判所への取得価格決定申立権」で保護
- ここで会社の発行済株式が一瞬すべて自己株式となった状態
- 新たなスポンサーに対する募集株式の発行等
- 株主総会特別決議等
- 必要に応じて自己株式の消却・種類株式の定款の定め廃止、減資
※「1」「2」「3」「5」は同タイミングで決議を行うことが可能です。
文章だけですと、なかなか説明が難しいですね…。別の機会に記事にしたいと思います。
結び
第6回は、種類株式の内容として「全部取得条項」について見てきました。
ややマニアックな話になってきましたね。
誰が読んでくれるのだろう…と思いつつ、まだシリーズは続きます。
企業法務/商業・法人登記
港区の司法書士
長克成