種類株式の解説:第8回「役員選任権」
種類株式の内容について解説・検討するシリーズの第8回です。
- 第1回はこちら→種類株式(1)-剰余金の配当
- 第2回はこちら→種類株式(2)-残余財産の分配
- 第3回はこちら→種類株式(3)-取得請求権:金銭
- 第4回はこちら→種類株式(4)-取得請求権:株式
- 第5回はこちら→種類株式(5)-取得条項
- 第6回はこちら→種類株式(6)-全部取得条項
- 第7回はこちら→種類株式(7)-拒否権
役員選任権
役員選任権が付された種類株式(役員選任権付種類株式)とは、当該種類の株式の種類株主総会を構成員とする種類株主総会において取締役又は監査役を選任することを定めた株式のことです。
この種類株式の株主で取締役●名を選ばせてね、というものですね。
役員選任権付種類株式を設ける場合は、種類株式の内容として、定款で次の事項を定める必要があります。
- 当該種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役又は監査役を選任すること及び選任する取締役又は監査役の数
- ①により選任することができる取締役又は監査役の全部又は一部を他の種類株主と共同して選任することとするときは、当該他の種類株主の有する株式の種類及び共同して選任する取締役又は監査役の数
- ①②の事項を変更する条件があるときは、その条件及びその条件が成就した場合における変更後の①②に掲げる事項
- その他会社法施行規則で定める事項(社外役員の選任に関すること)
②③④は基本的にはあまり考えてないでよいかと思います。
どの種類株式の種類株主総会で取締役・監査役を何名選任するか、を定めるということですね。
役員選任権付種類株式の一般的な定款記載例
1.普通株主を構成員とする種類株主総会において、取締役●名を選任することができる。
2.A種株主を構成員とする種類株主総会において、取締役●名を選任することができる。
3.B種株主を構成員とする種類株主総会において、取締役を選任することはできない。
司法書士的な観点から役員選任権付種類株式の注意
一見、各種類株式ごとに役員の選任が行えて便利そうにも見えますが、この種類株式を採用するには注意が必要です。
役員選任権付種類株式を定める場合は以下の決まりがあります。
- 取締役(又は監査役、以下同じ)の役員選任権付種類株式を発行する場合、当該定めを設けた会社の取締役の全員が種類株主総会により選任されることになる。
- 役員選任権付種類株式の定めを取締役の一部のみについて設け、残りの取締役は株主総会で選任する旨を定めることはできない。
- 全体の株主総会で取締役を選任したい場合は、議決権のある全種類の種類株式の株主が共同して開催する種類株主総会(≒株主総会)で、取締役を選任する旨を定める必要がある。
- 役員選任権種類株式を発行する場合に、一部の株式について当該種類株主総会で取締役等を選任することができる旨を定め、他の種類の株式について定款に定めを置かないことは許されない。
- 選任を行わない種類株式がある場合は、選任できない旨を定めておく必要がある。
上記の決まりがあるため、実務ではかなり使いづらい種類株式となるかと思います。
スタートアップ/ベンチャー企業では、本種類株式を導入するのではなく、投資契約・株主間契約で「●種類株式を有する株主が取締役●名を指名できる」旨を定めておいて役員選任権付種類株式と近い効果を得るケースが多いのではないでしょうか。
結び
第8回は、種類株式の内容として「役員選任権」について見てきました。
役員選任権付種類株式は制約が多く、使い方が難しいイメージです。
企業法務/商業・法人登記
港区の司法書士
長克成