種類株式の解説:第10回「種類株主総会の排除」

種類株式の内容について解説・検討するシリーズの第10回です。

種類株主総会の排除

種類株主総会とは、種類株式発行会社におけるある種類の株式の株主(種類株主)の総会です。

種類株主総会は、会社法に規定する事項及び定款で定めた事項に限り、決議することができます。(会社法第321条)

会社法に規定する事項のうち、「譲渡制限株式に関する募集事項の決定:株式/新株予約権」「種類株主に損害を及ぼすおそれがある場合」について見ていこうと思います。

募集事項の決定:株式/新株予約権

会社法199条:募集株式についての募集事項の決定に関する規定

会社法238条:募集新株予約権に関する募集事項の決定に関する規定

それぞれの条文の第4項に種類株主総会に関する規定が置かれています。

会社法第199条第4項

種類株式発行会社において、第一項第一号の募集株式の種類が譲渡制限株式であるときは、当該種類の株式に関する募集事項の決定は、当該種類の株式を引き受ける者の募集について当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議を要しない旨の定款の定めがある場合を除き、当該種類株主総会の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は、この限りでない。

会社法第238条第4項

種類株式発行会社において、募集新株予約権の目的である株式の種類の全部又は一部が譲渡制限株式であるときは、当該募集新株予約権に関する募集事項の決定は、当該種類の株式を目的とする募集新株予約権を引き受ける者の募集について当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議を要しない旨の定款の定めがある場合を除き、当該種類株主総会の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は、この限りでない。

  1. 募集株式/募集新株予約権の目的である株式が譲渡制限付株式の場合
  2. 種類株主総会の決議を要しない旨の定款の定めがある場合を除き
  3. 当該種類株主総会の決議がなければ効力が生じない

ということになります。

2.についての定めがあるか、ないかで、各募集事項の決定に関する手続の煩雑さがだいぶ異なります。

すべての種類の株式に譲渡制限が会社(普通株式・A種株式を発行)で、普通株式を発行しようとする場合、種類株主総会の排除に関する定款の定めがないと、「全体の株主総会」+「普通株式の種類株主総会」の決議が必要となります。

種類株式を導入する際は、後々の株主総会手続についても考えて内容を検討した方がよいと思います。

募集事項の決定に関する種類株主総会排除の一般的な定款記載例

当会社が募集株式又は募集新株予約権の発行を行う場合には、会社法第199条第4項又は会社法第238条第4項に基づく、普通株主を構成員とする種類株主総会を要しない。

種類株主に損害を及ぼすおそれがある場合

会社法322条:ある種類の種類株主に損害を及ぼすおそれがある場合の種類株主総会の規定

会社法第322条

種類株式発行会社が次に掲げる行為をする場合において、ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、当該行為は、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会(当該種類株主に係る株式の種類が二以上ある場合にあっては、当該二以上の株式の種類別に区分された種類株主を構成員とする各種類株主総会。以下この条において同じ。)の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は、この限りでない。

 次に掲げる事項についての定款の変更(第百十一条第一項又は第二項に規定するものを除く。)
 株式の種類の追加
 株式の内容の変更
 発行可能株式総数又は発行可能種類株式総数の増加
一の二 第百七十九条の三第一項の承認
 株式の併合又は株式の分割
 第百八十五条に規定する株式無償割当て
 当該株式会社の株式を引き受ける者の募集(第二百二条第一項各号に掲げる事項を定めるものに限る。)
 当該株式会社の新株予約権を引き受ける者の募集(第二百四十一条第一項各号に掲げる事項を定めるものに限る。)
 第二百七十七条に規定する新株予約権無償割当て
 合併
 吸収分割
 吸収分割による他の会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部の承継
 新設分割
十一 株式交換
十二 株式交換による他の株式会社の発行済株式全部の取得
十三 株式移転
十四 株式交付

 種類株式発行会社は、ある種類の株式の内容として、前項の規定による種類株主総会の決議を要しない旨を定款で定めることができる。

 第一項の規定は、前項の規定による定款の定めがある種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会については、適用しない。ただし、第一項第一号に規定する定款の変更(単元株式数についてのものを除く。)を行う場合は、この限りでない。

 ある種類の株式の発行後に定款を変更して当該種類の株式について第二項の規定による定款の定めを設けようとするときは、当該種類の種類株主全員の同意を得なければならない。

簡単にまとめると以下のような内容になります。

  1. 種類株式発行会社が
  2. 会社法322条1項各号に掲げる行為をする場合において
  3. ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときは
  4. 当該行為は、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議がなければ、その効力を生じない。
  5. 種類株式発行会社は、ある種類の株式の内容として、4.の種類株主総会の決議を要しない旨を定款で定めることができる。
  6. 但し、1項1号に規定する定款の変更については種類株主総会は排除できない。

2.の1項各号に掲げる行為は「限定列挙」と解されています。

3.の「損害を及ぼすおそれがあるとき」は、なかなか判断が難しく、必要であるにも関わらず種類株主総会を行わなかったときの影響が大きいことから、列挙されている事由を行う場合には種類株主総会をセットで行うという運用が行われていることが多いと思われます。

こちらも、種類株式を導入する際に、種類株主総会を排除してよいか否か、よく検討する必要があります。

会社法322条に関する種類株主総会排除の一般的な定款記載例

当会社が会社法第322条第1項各号に掲げる行為を行う場合において、法令に別段の定めのある場合を除き、当会社は、法令に定める種類株主総会の決議を要しない。

結び

第10回は、種類株式の内容として「種類株主総会の排除」について見てきました。

今回でこの「種類株式」に関するシリーズは完結です。

企業法務/商業・法人登記
港区の司法書士
長克成